【定山渓鉄道・百話 定山渓鉄道線路跡の今(5)】

2016年08月22日

 かつて、札幌の奥座敷と称された定山渓温泉まで、電車が走っていたことをご存知ですか?最後は札幌市営地下鉄南北線にバトンタッチして、1969年(昭和44年)10月に営業廃止となった定山渓鉄道です。延長約27キロと決して長くはありませんが、大正7年(1918年)10月の開通から半世紀にわたり、沿線の発展を見守ってきた鉄路に対して、深い愛着を感じている方々は少なくありません。もちろん筆者もその一人です。

 「定山渓鉄道 百話」では、廃止から47年が過ぎようとしている線路跡地の現在の姿に形をシリーズで紹介してきました。今回は残る最後の区間、一の沢付近から終点定山渓までの現在の様子を取り上げます。今、国道230号線拡幅工事の真っ最中で、いよいよ札幌都心部から定山渓まで全線4車線化が完成間近となりつつあり、実は今もっとも変化しようとしている区間なのです。

<一の沢~錦橋間>

 この数年、定山渓までの完全4車線化を目指して国道230号線の拡幅工事が進められています。現在は白糸トンネルの手前までがほぼ完了しました。この工事で、一の沢から定山渓までの線路跡地は、大きく変化しています。特に、国道わきを併走する百松橋前後の区間は、10年ほど前にはバラストなどもあり線路跡地の雰囲気が強く残っていましたが、2009年の夏前には整地され、歩道の一部になってしまいました。この区間にあった23.5キロポストは、09年の夏に引き抜かれてしまいました。
 その一方で、百松橋の手前、一の沢川を渡る橋梁跡のレンガ積み橋台は残っていて、夏には草木に深く覆われてしまうものの、初春や初冬には確認できます。この橋梁は当時、全長24.38メートルで、真駒内橋梁(27.22メートル)に次ぐ長さで、深いV字峡谷の一の沢川を渡るため、定山渓鉄道てもっとも高所を渡る橋でした。橋梁の定山渓の方には23キロポストと一の沢発電所への送水管を渡る短い橋が続いていまっした。そのレンガ積みの橋脚も藪の中に残されています。

道新ブログ定鉄跡5-11.jpg上段4枚は左から、2000年、10年、16年の百松橋付近の様子と、09年に工事のために引き抜かれる直前のキロポスト。現在は線路敷地界ギリギリまで道路が迫る

 線路跡が再び国道から離れる付近には、旧国道敷地を利用した開発局の車両計測所が設けられていましたが、拡幅工事開始とともに撤去されて、資材一時保管場所となりました(現在は札幌方向の国道2車線)。この建物で遮られていたシラカバの並木が国道からも見られるようになりました。この並木と笹薮の隊列こそ線路跡地を示しています。並木は、そのまま民家の裏手を越えています。この区間の跡地そのものは、バラストとともにまだ多少確認できるものの、深い笹薮と低木に覆われたまま錦トンネル手前まで続きます。24キロポストも含まれていますが、今年の調査では発見できませんでした。隣接地が一段高くなっていたため、押された土砂で埋まってしまったと推測されます。

道新ブログ定鉄跡5-12.jpg上段左上下2枚は2000年と工事が始まった10年の車両計測所付近の様子。上段中央上が計測所の先にあった24キロポスト。中央下と上段右が線路跡とシラカバ並木。下段は10年と16年の計測所付近の様子。いずれも写真に着色した青いラインが線路跡を示す

 蛇足ですが、国道錦トンネル付近では、旧国道の痕跡を見ることができました。旧トンネル北側に新錦トンネルが開通したため、痕跡は不明瞭になってしまいました。ただ、その旧国道と定鉄線との踏切があった付近は、某自動車整備会社の廃車体置き場が拡幅工事の準備で2004年ごろから整理が進み、07年にはほとんど撤去されて線路跡地が明確になりました。

 この踏切より定山渓方向の線路と旧国道の併走区間は、わずか一車線分しかない踏切を渡るや否や、急カーブとなっていました。また、豊平川の断崖の上、わずかなスペースを隔てただけでガードロープもありませんでした。非常に危険な場所だったと容易に想像できます。ここをバスが走っていたとは想像がつきません。一方、対岸には神威沢川が筋状に落ちる滝を望み、清涼感をたっぷり味わうことができる場所でもあります。その先はトンネルの錦橋寄り付近が新錦トンネル建設のために整地され、一部に残されていた架線柱の土台跡もなくなってしまいました。

道新ブログ定鉄跡5-13.jpg上段左2枚は2002年と15年の定山渓向き旧国道踏切り付近の様子。下段2枚は同じく一の沢方向の同一地点。写真に青で着色したラインが線路、オレンジで着色したラインが旧国道を示す。右側3枚は新錦トンネル外側の線路跡地と、今はない架線柱跡。そして、踏切跡付近から眼下に望む神威沢側の滝

<錦橋~白糸の滝間>

 鉄道廃止後、平岸~藤の沢間は札幌市へ地下鉄用地として譲渡され、ほかの区間は自社で宅地として販売したほか、鉄道建設前の持ち主に返還したところが多いそうですが、この錦橋だけは現在も(株)じょうてつ社有地です。錦橋停車場の駅舎跡は現在も土台が残り、地元の有志の方々が管理し、花壇に昔の面影を残しています。
 昭和20年後半~30年代ごろまで駅構内は複数の岐線が設けられ、また豊羽鉱山(水松沢)まで伸びる日鋼線の中継基地でもあったことから、民家、商店、温泉宿など今では想像できないほどに賑わう集落だったそうです。駅のはずれには住宅の門柱や土台、生活道路の痕跡が林の中に散見でき当時が偲ばれます。

道新ブログ定鉄跡5-14.jpg左側3枚は新旧錦橋停車場付近の様子。右側4枚は、錦橋駅構内に散見する住宅の跡

 錦橋を出ると大きくカーブして山の切通しの間をくぐるようにして定山渓温泉へと線路は進みます。この切通しも「切割り」と称されて定山渓の名勝の一つとなりました。開業当時の大正時代では馬車道と線路とが別な岩塊で分けられていたようですが、その後の度重なる道路改良で削られて、現在のように広くなってたと思われます。鉄道廃止後は線路跡地も含めて2車線の道路につくりかえられ、現在に至っています。しかし、白糸トンネル部分の国道拡幅工事が進むにつれて、この切通しの部分がどう変化するかが気になるところです。

道新ブログ定鉄跡5-15.jpg錦橋を出てすぐに差し掛かる「切割り」と呼ばれた場所

<白糸の滝~定山渓間>

 切通しから先は、白糸トンネルをくぐった現国道と併走し、位置が高い国道のコンクリート壁のすぐ下を通っていました。切通しを線路と併走していた旧国道は今でも簡易舗装の道路として残り、その両側に古い民家が数件並んでいました。現在、いくつか解体が進められています。もともと踏切があった白糸の滝停留場手前は、新国道付け替えとともに小さな公園として整備されました。白糸の滝停留場敷地は、廃止後ほどなく「北海道秘宝館」というレジャー施設が建てられましたが、廃業の後に整地されています。また、先の小公園も現在は道路拡幅工事のため用途廃止され、遊具一切が撤去されています。おそらく、線路跡地を含めてこの区間はごく近い将来、姿を大きく変えるのではないでしょうか。

道新ブログ定鉄跡5-16.jpg上段左側2枚は新旧の白糸の滝停留場付近の様子。上段右側3枚も同様に駅舎敷地の新旧の様子。下段左はかつての旧国道と線路との踏切があった場所の様子。廃止後は小さな公園になったが、現在は国道拡幅のため撤去された。下段右は旧国道の現在の様子。空き家の撤去が進む

 白糸の滝より先は、廃止後まもなく集合住宅、ホテル駐車場ができました。定山渓大橋たもとの線路跡地には、某企業の細長い宿泊施設が建てられましたが、今は更地に。その先はホテルの増築建物、住宅、駐車場として利用されています。章月グランドホテル前は踏切で、温泉街に下る急こう配の交差点でもありました。その先はホテル敷地となり、終点の定山渓停車場跡地は、廃止後しばらくして定山渓スポーツ公園として再開発されました。残念なことに、温泉街の玄関口として堂々たる威容を誇っていた駅舎はあっけなく解体されてしまったようです。駅舎跡はは現在、一部が駐車場、そして札幌市南区役所の定山渓出張所の敷地となっています。「さっぽろ・ふるさと文化百選」のモニュメントとともに定山渓駅舎のホーム土台に使用されていた軟石ブロックが、公園の片隅に置かれています。

道新ブログ定鉄跡5-17.jpg上段左2枚は章月グランドホテル前の踏切付近の様子。線路跡は廃止後にざっくりと築堤ごとカットされた。下段2枚は1990年に指定されたさっぽろ・ふるさと百選の標と定山渓停車場の土台の軟石。右側3枚は廃止直後の定山渓停車場駅舎と現在の姿

 5回に渡って定山渓鉄道の線路跡地の現在を紹介しました。定山渓鉄道開業が札幌市域にもたらした恩恵は語りつくせないほどです。しかし、皮肉にも札幌の加速度的な発展が鉄道を廃止へと追いやり ました。廃止から47年が過ぎ、線路跡地、沿線風景は休みなく姿を変えています。今となっては「じょうてつ」が「定山渓鉄道」の略称だと知らない方も増えているようです。失ったものを蘇らせるのは並大抵の努力ではできないでしょうが、今も残されているものや記憶を残すことは、それほど難しくはないと考えています。少しでも、かつて定山渓鉄道が走っていた、という記憶を伝え、残すお手伝いをしていきたいと願う今日この頃です。どうもありがとうございました。

 Facebookページ「定山渓鉄道資料集」もぜひご覧ください。

北海道鉄道観光資源研究会 久保ヒデキ

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