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30年目の初対面(ジャーナリスト・原寿雄さんのこと)

2012年10月26日

 私が記者志望の学生だったころ、胸を躍らせて読みふけった本があります。在京新聞社の現役デスク、小和田次郎なる人物の手になる「デスク日記」。1964年から足かけ5年間、出版社の発行する月刊誌に連載された文章で、私が手にしたのはその後、出版された書籍版。報道の現場で起きるさまざまな課題・問題を鋭く描いた、マスコミの内部にいるからこそ書ける本でした。本を通じた出会いから30年余、先日、ペンネーム小和田次郎の本人、元共同通信編集局長の原寿雄さんに初めてお会いする機会がありました。


 共同通信というのは、弊社を含む全国の主要新聞社などで組織する社団法人で、国内外のニュースを取材し、加盟社に配信する組織です。「デスク日記」では、例えばこんな“事件”が紹介されています。68年1月、核兵器を積んでいると見られる米国の原子力空母エンタープライズが長崎県佐世保市に寄港した際の学生の抗議デモに関する記事に書かれていた、機動隊の過剰な警備に対する「機動隊帰れ!」「学生をなぐらないで」といった市民の声を、配信を受けた一部加盟社が「全学連帰れ!」「みんな帰れ!」などと書き直し、後に記事全文を取り消したといいます。通信社の人間が加盟社を批判するというのは異例のことです。

 厳しい視線は自らの組織にも及び、同じ年、共同通信の記者が閣僚の憲法批判発言を詳細に報じ、閣僚が辞任に追い込まれた後、加盟紙から「偏向報道だ」と批判され、共同通信の幹部が謝罪した“事件”にも触れ、「第一線の記者は浮かばれない」と書いています。また、広島、長崎の原爆被害者が国を相手取って訴えていた「原爆訴訟」の東京地裁判決では、各紙の記事を比較し、判決が被爆者を救済しようとしない「政治の貧困」を批判していたのに、記者たちは重大な結論を予測せず、「政治の貧困」との指摘を見落とす社もあった、と書き、記者たちの準備不足、勉強不足に苦言を呈しています。

 入社前からマスコミのあり方について考えるよすがを与えてくれた原さんに今回会えたのは、会社の先輩からの電話。「元共同通信編集局長の原さんという人が、北星学園大の特別講義で札幌に来るから一緒に会わないか?」と言われ、「原さんって、『デスク日記』の小和田次郎さんですよね! ぜひ!」と二つ返事で講義前日の懇親会、当日の特別講義に行くことにしました。

 大正生まれで90歳近いお歳の原さんですが、頭脳明晰。懇親会では、学生時代に「デスク日記」を熟読していました、と伝えたところ、「今、全5巻のまとめ版を編集している最中。日記形式でもいろいろ関連があったりして結構手がかかってね。完成したらお送りしましょう」とのことで、毎日元気にお仕事をされている様子でした。

 また、翌日の講義では「原発事故が起きた後なら、原発の危険性・問題点についていくらでもかけるが、記事の意義は大きく薄れる。事後に書く『アフター・ジャーナリズム』ではなく、事故が起きる前に警鐘を鳴らし、事故防止に資する『ビフォア・ジャーナリズム』が大切だ」と強調。尖閣諸島をめぐる問題では、「中韓で領土に関する主張が強硬化するのは、両国とも昔より民主的になって、世論の領土ナショナリズムを無視できなくなったため」という、感情に流されない相手国へのまなざしにハッとさせられ、「領土問題ほどナショナリズムを燃え立たせるものはない。日本の新聞には、戦争当時、ナショナリズムをあおって部数を伸ばした歴史がある。ナショナリズムはジャーナリズムが陥りやすい罠だ」との指摘に考えされられました。

 私事ですが、ちょうど11月1日の弊社創立記念日で30年勤続の節目を迎えます。そんなタイミングで得た原さんとの初対面の機会に、ジャーナリズムを志した初心を思い出せ、と言われたような気持ちになりました。原さんの「デスク日記」は、読者に見えにくい報道の現場の動きを、悪い面も包み隠さず生き生きと伝え、マスコミと市民を結ぶ役割を果たしたと思っています。私も、電子メディア局というこの部署で、IT技術の活用など、この時代に合わせた新しい形でのメディアと市民との橋渡しを、と思いを新たにしました。

<編集グループ・飯島>


 写真は北星学園大からの帰り道、秋の気配を感じて撮った1枚です。

炭鉱遺産の魅力

2012年10月11日

 先週末は6、7、8日と3連休。まったく予想していなかったので、うれしくなって7日、8日と妻と2人でちょっと遠出しました。お目当ては「秋の三笠鉄道村イベント」。三笠市の幌内炭鉱で採掘された石炭を小樽港に輸送するために建設され、1882年に全線開通した道内初の鉄道、官営幌内鉄道の130年ということでいろいろな記念事業をやっているようで、以前から気になっていたのですが、鉄道よりむしろ炭鉱そのものに触れる旅行になりました。

 7日の朝に車で家を出て、鉄道村で、家族連れを乗せて動くSLを見て喜んだ後、さて宿泊を予定していた上富良野町までひとっ走り、と動き出したところで目に飛び込んできたのが、こちらの建造物。幌内炭鉱の立坑やぐら跡です。川崎出身で、炭鉱に特に思い出があるわけでもないのですが、1959年生まれで、子ども時代によくテレビで炭鉱のニュースを見ていたせいか、立坑やぐらにはどうにも郷愁をそそられ、車を止めて写真を撮りました。

 同じ場所に車がもう1台。2人の青年がカメラをぶら下げていました。たまたまやぐらを見かけて車を止めた観光客かな、と思いながら冗談で「産業遺産マニアですか?」と声をかけると、なんと声をそろえて「はい、そうです」。しかも、「炭鉱以外にもいろいろ興味あるんですか?」と聞くと、「いえ、もっぱら炭鉱です」と言われてさらにびっくり。2人とも九州の大学出身で、在学中に筑豊で炭鉱の魅力に取り付かれ、今回は神戸と埼玉から来ているということでした。若い人でも、エネルギー源としてはとっくに歴史的な使命を負えた感のある炭鉱に興味を持つ人っているんですね。驚きました。


 2人に「気をつけていい旅を」とあいさつして出発。と思ったら、ちょっと走ったところでまたやぐらを見つけ、妻に急ブレーキを叱られながらUターンし、近くに車を止めました。こちらは奔別炭鉱の立坑やぐら跡だそうです。近くの駐車スペースに車を止めると、隅にプレハブがあって人が何人か。ちょうど、選炭施設(石炭積み出しホッパー)を中心に、芸術家たちが作品を展示する「奔別アートプロジェクト」というイベントが開催中だったのです。

 炭鉱遺産に足を運んでもらおうと、NPO法人炭鉱の記憶推進事業団が企画し、現代芸術家の端聡氏や札幌市立大の上遠野敏教授、学生ら40人が炭鉱をテーマにした約40点を展示するというこのイベント。ちょうど事業団の理事長を務める吉岡宏高さん(お父さんは幌内炭鉱の炭鉱マンだったそうです)の「明るい炭鉱」という本を読んだばかりだったので、さっそく見てみることにしました。

 こちらが会場となったホッパー。石炭を貨車に積む施設だそうで、左下の入り口から貨車が中に入ると天井から石炭が落ちてくるとのこと。長さ100m、幅13m、高さ20mと国内最大級だそうです。一時は解体の危機にあったものの、所有者の英断で今は財団が借り受け、活用しているそうです。

 こちらがホッパーの内部。貨車が入って来た後、天井の穴から石炭が落ち、貨車に積まれるという仕組みです。

 こちらは展示作品の1つ「ホッパーサウンド」。往時の喧騒がよみがえるようで、気に入りました。

 こちらは、坑内で石炭を運ぶ「炭車」がモチーフでしょうか。積んである石炭には1個1個に左上のような顔が描かれていて、なんだかユーモラスな作品です。

 こちらは屋外の展示物。後ろに見える立坑やぐらとの絡みがいい感じです。


 アート展の会場とはいえ、ホッパーは、屋根はこんな有り様。建物の裏はといえば左側のような状態で、ジャングルとは言わないまでも、すっかり森に戻ってしまっています。


 吉岡理事長の「明るい炭鉱」によると、炭鉱といえば全国的に筑豊の中小炭鉱が有名で、「暗くて悲惨」というイメージが強く、空知の産炭地はそこからの脱却を目指して観光に走り、無理な投資を重ねたあげく、地域の破綻という危機に直面しました。しかし、明治に炭鉱の開発が始まり、戦前戦後の日本を背負って立ち、その後、エネルギーシフトの中で一気に没落した、その「炭鉱(やま)の記憶」は劇的で、住民がこの記憶を取り戻し、誇りを持って大切にして活用することこそが、地域の再興につながる。そう考え、ドイツなど海外の事例も参考に、炭鉱跡を舞台にしたアート展や遺産巡りツアーなどに取り組んでいるそうです。

 たまたま気まぐれで立ち寄った炭鉱遺産で見せてもらった、地域の歴史に目を向け、誇りを持って取り組まれている産炭地ならではの地域おこし。学生をはじめ若い人たちも大勢参加しているらしい、すばらしい取り組みに触れることができて、すっかりうれしくなりました。転勤族であちこち回ってきましたが、残念ながら旧産炭地住まいは未経験。次の任地は産炭地がいいかな?

 「奔別アートプロジェクト」は10月28日まで開かれているそうです。ほかにもいろいろな作品が展示されていますので、興味のある方はぜひ、会場を訪れてみてください。観覧は無料です。詳しくはこちらをどうぞ。

 そうそう、最初のお目当てだった「秋の三笠鉄道村イベント」。動画ニュースをアップしています。こちらをご覧ください。鉄道村の情報はこちらをどうぞ。

<編集グループ・飯島>

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