保管状態のよい初期のレコードから復刻した、いわゆる「板起こし」といわれるCDがあります。
例えばフルトヴェングラー指揮、ウィーンフィルのウラニア盤「エロイカ」といわれた録音。オリジナルのLPは呆れるほど高額で、一説には一時20万円の値が付いたと云われています。そういう法外なものはほしいとは思いませんが、学生時代に手に入れた同じ演奏のフォンタナ盤LPを聴き、その音に愕然としたことを忘れません。
もとのウラニア原盤もそうらしいのですが、フォンタナ盤は本来の演奏とくらべ、ピッチが半音高くテンポも速いとジャケットに書かれてあったが、フルトヴェングラーを尊敬する私でも、聴くには勇気がいりました。1944年12月、第二次大戦最中の録音ですので、音が荒れ、貧弱なのは仕方がないとしても、音程がおかしいせいか、いくら聴いてもなじめず、以来20年以上、聴いていませんでした。
しかし昨年暮れに、よい復刻盤CDがあることを本で知り、小遣いをはたいてDelta盤、OTAKEN盤、altus盤(レーザープレーヤー再生)、Grand Slam盤を求めました。

ピッチとテンポが正しく調整され、それぞれの復刻者により音質を補正された録音を聴き、フルトヴェングラーのこの「英雄」の素晴らしさを再認識しました。聴いていて、本当はこういう演奏だったかと胸を熱くしました。
ところで、今回、世評高いDelta盤でフルトヴェングラーのベートーヴェンをいくつか聴き、憑きものが落ちました。Delta盤はこの大指揮者の録音としてはまずまずの音質です。しかし、38年前にドイツエレクトローラのブライトクランクステレオによる「運命」を聴いて圧倒された私の耳は、さらに素晴らしい至上の録音を夢見てきました。今回、音質的に最上とされるもののひとつであるDelta盤(モノーラル)を聴き、これ以上のものを望むのは叶わぬ夢なのだと思いました。
一方で新しい発見もありました。Altus盤のフルトヴェングラーによる「運命」(1943年6月27~30日録音、ベルリンフィル、ライブ)は、これまでのイメージを一新する内容で、レーザーターンテーブルの威力なのでしょう。

音の強弱の幅が広く、生々しい厚い響き。第2次大戦のさなかの明日をも知れぬ状況のなかで行われた演奏で、聴いていて思わず襟を正しました。 (俊)









