部活・指導者と選手、愛の物語!

2018年12月03日

「彼女、公務員試験と警察試験、両方に合格しました」と、指導者が言った。

「彼女の存在感は人に通じるんですね!すごいなあ!」と、私。

その日の練習の最後に指導者が選手に、先輩が公務員試験と警察試験に合格したことを報告した。部活の目標のひとつだからだ。

私は彼女が練習中からいつも声をだし、仲間を、自分を奮い立たせていたことを2年生に思い出させ、彼女を知らない1年生に語り伝えて欲しいと呼びかけた。

記憶に鮮烈に残る試合があった。彼女は身長153センチほど、それほどスピードがあるわけではなく、スタメンで出ることはなかった。ある試合でチームは押されに押され形勢は不利、メンバーの顔からは笑顔もなく敗色濃厚、その時に指導者は彼女を起用した。「はい、00番オーケー!さあ、いくよ!」会場に彼女の声が響き渡った!チームが息を吹き返した。正に彼女の声で相手は萎縮し、味方は奮い立った!彼女の声がエネルギーを生み出したのだ!試合はあと1分あれば逆転も可能だった。

彼女が試合に出だしたのは3年生になってからだ。シュートの確率が良くなった。3年生は6月の高体連大会で引退となる。彼女は5月ぐらいから「公務員試験対策」で特別塾に通うようになった。練習を途中で切り上げることが必要になった。でも全員が「心から応援して送り出すように」なった。

最大の危機はそのころからやってきた。左アキレス腱痛だった。短期で治すにはやっかいな痛みだった。走れば痛みが出る。走らなければ練習にならない。彼女は「もう、大丈夫です」という。大丈夫でないことは私には分かる。練習前後のアイシング、マッサージ、温冷治療が必要だった。

一度だけ放置したことがある。「もう、絶対大丈夫です」と言ってきかないからだ。そして練習後、泣いた。痛みがあり、走れないことを自覚したのだ。「絶対に高体連には出す。任せろ」と檄を飛ばした。痛みは残っていたと思うが彼女は絶対王者を相手に奮戦した。

絶対王者には絶望的な点差をつけられた。私はショックを受けていた。その時だった。応援に駆け付けていた彼女の父親が私の前に立った。何も言わずただ頭を下げた。何も言わずではなく、何も言えなかったのだ。肩が震えていた。奇妙な光景だったと思う。大の男が何も言わず深々と頭を下げ合っていた。彼女は私の作業を両親にすべて報告していたのだろう。だから、父がきた。

部活の指導者は、選手たちに言う。「自分たちのお父さん、お母さんを最大のファンにするんだ」。だから、この指導者のチームの保護者席はいつも満員となる。指導者の持つ「愛の力」は選手から保護者に伝わっているからだ。

私が指導者の元を離れ、母校の後輩が靭帯断裂からのリハビリに苦労していることを知りその手助けが終わったとき、指導者は私に「後輩はどうなりましたか?」と聞き、試合に復帰したと報告をしたあと言葉を繋いだ。

「私もチームの選手も伊藤さんに引退勧告やトレード要員を通告したことはありません。私たちのベンチサイドの伊藤さんの定位置は今も空けています」。

私は二人の息子に復帰を知らせた。ミャンマーにいる息子は1月に一時帰国するから応援に行くよ、といい、バレーボールアナリストの次男は「トレーナー、がんばってね、こっちもがんばる」と言ってきた。

声はエネルギーを生む。指導者と選手の繋がりは「愛の力」を生む。

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