STVジャンプ、37回大会の奇跡!

2015年01月20日

18日に行われたSTVジャンプ大会は、ことしで第54回を数える伝統の大会だ。

スキージャンプは屋外競技で、大自然が相手だから大本命が勝つこともあれば、ダークホースが優勝をさらうこともある。俗にいう「風のいたずら」というやつだ。

しかし、過去の優勝者、しかも複数回の優勝者を見れば絶対的な王者の姿が見えてくる。歴代最多優勝者は6回の笠谷幸生氏、5回が葛西紀明選手、3回が岡部孝信氏・東 輝氏、2回が菊地定夫氏・秋元正博氏・原田雅彦氏・船木和喜選手だ。

54回を数えるSTV杯ジャンプ大会のなかで、一度だけ奇跡が起きたのは1998年1月18日の第37回大会でのことだ。優勝者は高橋竜二選手。生まれながらに聴覚障害を持ちながらスキージャンプを続けた「ハンディキャップ・ジャンパー」だ。スポーツ学的に言うならば、三半規管に障害を持つひとはバランス感覚が一般人より劣るから、空中でバランスを取ること自体が至難の業なのだ。

高橋竜二は北海道高等聾学校を卒業し、歯科技工士として水戸歯科医院に勤務した。もちろん竜二は全日本強化指定選手ではない。仕事をしながら、練習時間をやりくりする「一般選手」だ。

あえて言うが、高橋竜二の優勝が奇跡だったのではない。竜二は幼き日からの夢を追い、1998年長野冬季五輪代表に肉薄し、代表入りがならなかったあとでも長野五輪ジャンプ団体戦の金メダルに貢献したのだ。つまり、竜二の生き様が長野の奇跡につながったのだ。

第37回STV杯ジャンプのアナウンサーは和久井 薫氏、解説は1972年札幌冬季五輪70m級ジャンプ金メダリスト・笠谷幸生氏だった。その笠谷氏が竜二の1回目のジャンプの直後に「きょうは高橋竜二君が勝つと思いますよ」と予言したのだ。笠谷氏とは長いつきあいだが、過去に「今日は誰が勝ちますか?」と水を向けても「おれは予想屋じゃないから、分からん」としか言わなかった人が、TV中継前半で勝者を予言したのだ。

1回目は高橋竜二118・5m、すぐ後に岡部孝信116・5m、宮平秀治114・5mとナショナルチームメンバーが続いていたから、その段階で竜二が優勝すると思った人は笠谷氏だけだったろう。笠谷氏は、竜二の1回目のジャンプに間違いなく勝利の鍵を見出したのだ。竜二のジャンプを見て5人の飛型審判がつけた点数は、19・0,19・0、18・5、18・5、18・5、つまりほぼ完ぺきなジャンプだったのだ。

竜二は2回目に130mを飛び、他を圧倒した。総得点244・3.2位岡部孝信は229・8だから圧勝だ。私は笠谷幸生という名選手の眼力に圧倒された。

この日のハイライトは表彰式終了後だった。和久井アナウンサーが竜二にインタビューを始めたのだ。竜二は聴覚障害者だから、言葉を覚え話をするまでには大変な努力が必要だった。その竜二が和久井さんに勧められるままに、マイクを持った。「きょうは お寒いなか 応援していただいて ありがとうございました」  気がつけば和久井さんの目は赤く、私を初め大倉山に来られた方々のほとんどが泣いていた。

1998年2月17日。長野五輪ジャンプ団体戦。竜二はテストジャンパーの一員だった。猛吹雪で視界は失われ、あわや競技が1回目で打ち切りという極限のなか、竜二は飛び続けた。竜二は131mを飛んだ。「大丈夫、ぼくのレベルでもこれだけ飛べますよ」、、、2回戦につながる竜二の大飛行だった。日本は1回目の4位から奇跡の大逆転優勝を実現させた。

輝いた者たちの後ろに、輝かせた者たちもいた。

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