いいなあ…城山三郎さんのゴルフ哲学
2008年06月25日
6月某日。北海道の苫小牧には雨が降っていた。
天気予報が当たった。
ゴルフに行かなかった。特に予定のない休日だというのに。
天気予報が「強めの雨」だったし、珍しいことに仲間からの誘いがなかった。女房の目になにか冷たいものも感じたし…。
できそうなゴルフをあきらめるのには明確な名分が必要だ。できるゴルフをそのまま実行に移すのには何の理由もないけど。
恋の成就に経過説明は不要だが、別れにそれなりの訳が求められる。
似ているかもね。
しょうがないね。ということで、窓に当たる雨を見ながら、本を読んだ。
◇
晴れた日にはコースに出てプレーをし、雨の日には、机に向かい本の世界に身をゆだねる。
理想の生活。
「晴コース雨読」と呼んでみるのはどうだろう。
◇
この日読んだのは、作家城山三郎さん(昨年3月に79歳で死去)の「城山三郎 ゴルフの時間」(ゴルフダイジェスト新書、857円+税)だ。
帯紙には「城山さんがゴルフについて書きのこしたすべてのこと」と内容の説明があり、城山さんの言葉として「スコアなんてゴルフの楽しみの7分の1にすぎない」としるされている。
城山さんには、35年ほど前に一度お目にかかったことがある。私が通っていた大学に講演に来てくれた。
聴衆は10人ほどしか集まらず、城山さんは用意された壇を降りて、10人の椅子を輪のように並べ直し、そのひとつに座って静かに話した。
企業人の倫理観の大切さ述べたように記憶しているが、残念ながら細部は覚えていない。
当時の私は、主にマルクス主義系の本を読み、なにかと議論を好む傾向があった。世界を単一の理屈で説明できたら気持ちいいな、と思っていたフシもある。
そんなふうだから、城山さんのことは、いわゆる「サラリーマン処世訓」を説く世俗作家の一人と誤解し、最初から軽く見ていた。それが記憶が薄い原因だ。
しかし、社会に出て組織の人間になり、相応の辛酸もなめた。たまたま城山さんの著作を読み始めると思いは変わった。一挙に心が引かれた。
特に、首相・広田弘毅の意地を描いた「落日燃ゆ」。実際は戦争阻止に駆け回ったのに、東京裁判では逆に戦犯とされ、「結局は戦争が起きたじゃないか」との責任感から一言も弁明をせずに絞首刑に服した、そんな広田の潔さを描いた小説で、読みながら涙をちびりそうになった。
こんなことなら、35年前のあの日、いろんなことを質問しておくんだった。
もったいない。
◇
さて、「ゴルフの時間」。昨年の秋に出版され、間もなく買って読んだ。
今回は、再読である。
新書版、180ページ。4章からなっている。深刻な不眠症のなか医師からゴルフを勧められ健康を取り戻すきっかけをつかんだ経緯、政財界・文壇の重鎮とのグリーン上の交遊、世界各地のコース探訪…。
内容の説明はこれまでにする。
ネタばれしちゃ、読む楽しみを奪うから。
どうぞお読みください。
ただひとつ、私の今後のゴルフ生活の参考になったことを書く。
本書のなかの「ふしぎな一日」という文にこうある。
「総理だった大平正芳さんからヒッコリーのパターをもらった。(略)。その大平さんが亡くなった。葬儀の日、たまたま、程ケ谷で文壇のゴルフがあった。知人の葬式に行かぬ代わりに、著作を読むなりして、私は冥福を祈ることにしているが、大平さんの場合は、もらったパターを使うことにした。……(略)大平パターのおかげで抜群の好スコアで優勝した」
葬式には行かず、一人で冥福を祈る。
いいねえ。
そこで私はひらめいてしまった。
葬式には行かず、静かに故人のメールを読みながら、人柄をしのぶ、というのはどうだろう。
クラブを贈ってくれるほど裕福なゴルフ仲間はいないし、著書を持つようなケースも少ない。しかし、ゴルフに絡むメールなら、しょっちゅうやりとりしている。
ラウンドへの誘い、コース選び、スタート時間の連絡・変更、メンバー選択。ラウンド後のあいさつ、愚痴、反省、うっぷん…。
膨大な本数が蓄積している。
これらを長期保存しておこう。
知友に「万が一」のことがあったら、香典だけ現金書留で送付し、式場には顔を出さない。
(周囲がそうは許さない場合もあるだろうけど)
式の時間帯、メールを呼び出して、味読する。胸の前で手を合わせ、故人の顔を思い浮かべ、メールを朗読する。
お経代わりにメールをよむ。
そんなのはどうだろう。
祈りは遠くから。
その方がよく伝わる。
◇
ゴルフ関係のメールの保存はねんごろにしよう。
過去のスコアカードを全部、破り捨てることがあっても…。
▲「ゴルフの時間」の表紙(上)と帯紙
▲本に納められたゴルフ仲間との写真。左から2人目が城山さん
<口からシャンク>
「ソバ屋さん、池越えねらいますか?」
「きざみます。のびるとマズイので」
「あ、シャンク!自慢のコシはどうしました」
「手打ちになりました。次は<ピンそば>をねらいます」
(浮世床さんからの投稿作)
