今朝も落語で目がさめた
2008年01月23日
「落語を、なんというのか、その…少し体系的に聞いてみたいのだけど、何から入っていけばいいんだろう」
私が高校・大学と落語研究会のメンバーだったことに目を付けられ、そんな質問を受けることがこれまで幾度かあった。さらにこの「らくごるふ」を始めてから度数が増えた。
質問する人はたいていインテリ系のまじめ人間だ。メガネの奥の目を光らせて、メモを取る構えに入る感じで…。
落語の鑑賞なんて造作ない。100円ショップでも、近くの図書館でも行って、手にしたCDをかたっぱしから聞いてみれば道筋がつくだろう。それから先はお好みしだい。
そんなふうに言いたいが、それじゃ元も子もない空気が漂いそうなので、メガネの奥の光を見返すようにしながらお答えする。
「聞かれても、私なんか、たいしたことないですよ。例えば昭和の名人の一人といわれる三遊亭円生だって、ナマの高座で聞いたのは100回程度ですから。まだまだ…」
とまず軽くジャブで威圧。
相手がひるむのを見届けてから、次の3点を示してやることにしている。
<1>東京に行った折は、上野の鈴本演芸場(JR御徒町駅北口から歩いて数分)へ足を運ぶべきだ。寄席はいい。頭を空っぽにして、ボーと座っていると、まず漫談や紙きり、神楽や曲芸でリラックスさせてくれ、最後に落語で心の隅々をくすぐってくれる。心のマッサージ。極楽、極楽。
寄席の落語は、その日の天気や時事ニュース、客席に流れる空気に対応して刻々と変わる。CDやDVDのなかに鎮座する大名人より、ライブの高座で汗を流す中堅どころが面白いのである。
上野・鈴本を勧めるのは、北海道民(多くは羽田空港を使う)が行きやすい場所にあるからで、新宿・末広亭でも池袋演芸場でもかまわない。ただ私は、鈴本の番組づくり(落語と色物の組み合わせなど)がほかよりうまいように思えるので挙げてみた。
<2>コラムニスト・中野翠さんの「今夜も落語で眠りたい」(文春新書)に身をゆだねて、聞き進むのも賢い手。中で「①桂文楽②古今亭志ん生③古今亭志ん朝―の順で聞いたのは正解だった。古典落語のスタンダードがほぼ網羅されているからだ」といった趣旨の記述があり、47枚のオススメCDが紹介されていてうれしい。
この流れでいけば、「落語CD&DVD名盤案内」(だいわ文庫)も重宝。代表的な古典落語200題と、入手可能なCDとDVD合わせて660枚を紹介している。すごいボリューム。全部聞いていたらそれだけで人生が終わりそうで、落語的かも。
<3>自分の町にときどきやってくる「落語会」「寄席芸人ショー」に、行ってみる。ぶらっと。行き当たりばったりを大事に。
何事につけ、南極探検にでも行くかのように慎重な下調べをする人がいるが、落語会の前にはやめたほうがいい。<1>で触れたように、頭を空にして、神経の急所をくすぐられるのを待つのが、寄席遊びの作法だと思う。
私自身のことを言えば、苫小牧市内のライブハウス「アミダ様」に先ごろ、林家正雀さんが来て独演会を開いた。自宅からライブハウスまで歩いて5分。ビールを飲みながら寝ころぶようにして聞いた。
この日、正雀さんは「寝床」と「水神」を演じてくれた。語りはやや地味だけど、演出の背骨がしっかりとしている。いやあ、これで木戸銭が3000円とは安い。
「やはり志ん朝はいいですねえ」「文楽ってすごい」。
私の助言から何カ月かして、メガネのインテリ氏がこんなことを言ってくると、<2>から入ってCDを楽しんでいることが分かる。ライブ落語を忘れてほしくないが、ともかく落語長屋の店子になってくれたことは何よりもうれしい。
▲口演のあと、寄席の踊りを披露する正雀師=苫小牧市のライブハウス・アミダ様
<口からシャンク>
「うまい落語家とかけて、高級石けんと解きます」
「その心は?」
「気持ちよく落としてくれます」
