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チェロを弾く役者「その11」

2010年06月29日

ソウル近郊の都市、ウィジョンブ。
大衆食堂のような店での出来事。その続きです。

平田さんと飲み始めてまもなく、一人の男が現れました。

彼は、奥のテーブルに着席し、メニューを見ていましたが、
韓国語がわからないらしく、困った様子でした。

平田さんが、日本語で「こっちへ来て、一緒に飲まないか、、」
と誘うと、彼はのっそりと立ち上がり、
無言でこちらのテーブルに移って来ました。

日本語はわからないはずなのに、不思議ですね。

この男は、「ウィジョンブ音楽劇祭」に参加している、
チリの劇団の音楽・音響担当の人でした。
名はステファン。フルネームは聞きませんでした。

310.jpg

写真:世界から7ヵ国が参加した「ウィジョンブ音楽劇祭」から、
チリの劇団のパンフレット。


彼は、疲れているような、落ち込んでいるような様子だったので、
この男のためにチェロを弾くことにしました。

ところが、チェロを弾こうとすると、床が堅いタイルなので、
チェロがうまく固定出来ません。

平田さんは、チェロが固定出来るものを、店のあちこち捜し回り、
「これでどうだ!」と言って持ってきたのは、座布団でした。

座布団では、チェロがすべってしまって、まるでだめでした。

それを見ていた店のママさんが、
一言何か言って、二階にかけあがって行き、持ってきたのは、
大きな毛布でした。

これでチェロは、なんとか固定出来ましたが、
毛布を敷き、その上でチェロを弾いたのは、これが初めてでした。

「I・will・play・for・you、、Aria・on・the・g・string、by・Bach」
と、ゆっくり言うと、ステファンは、黙ったまま小さくうなずきました。

僕は、バッハの名曲を最後まで目を閉じて弾きました。
曲が終わって、ステファンをみると、
彼は目に涙を浮かべて僕を見つめ、小さく2~3度うなづいただけで、
やはり黙ったままでした。

目に涙を浮かべている、、、感動したのかも知れない、、、

「Ave・Maria、、by・Schubert」と、彼に告げ、もう一曲弾きました。

曲が終わると、なんと今度は店のママさんが、今のアヴェマリアを美声で、
歌い始めたではありませんか、、、

ベートーベンやドボルザークの弦楽四重奏曲が、
BGMで流れている店ですから、
店の人は、皆、クラシック音楽が好きなのでしょう。

ママさんの歌声で、店内はすっかり明るい雰囲気になり、
ステファンも、笑みをうかべるようになり、
片言ですが、会話がはずむようになりました。

悲しい時は慰めてくれる、、、苦しい時は励ましてくれる、、、
楽しい時は、もっと楽しくしてくれる、、、

音楽の力って不思議ですね。

韓国に来てソウルで4公演。ウィジョンブで2公演。
回は重ねても「あしたも初日、あさっても初日」。
これからも、常に新しい気持ちで、舞台に挑んで行こうと思います。

12日間にわたる「TPS」韓国公演の旅。
「ウィジョンブ 音楽劇祭」に参加した、
地元韓国の劇団のパンフレットをご紹介して、韓国からお別れします。


218.jpg


つづく。


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コメント

チリの男性だったのですね。
遠い異国での仕事、何か思いがあったのでしょうか・・・。

G線上のアリア、アヴェマリア、どちらの曲も、いつ聞いても感動します。

平田さんの座布団話し「これでどうだ!」は、最高です(@゚▽゚@)

えみさん、ありがとう。

チリのションボリ男。
チェロと店のママさんの歌で、元気になって
よかったです。

「座布団」、、、「これでどうだ、、」
面白いですね。

毎日暑いですが、お変わりありませんか?
落ち込んでいる人を前に
放っておけない英順さん・・・
言葉が通じなくても
音楽で心を救えるなんて
本当に素敵です

英順さんこんにちは★
しばらく札幌から離れてました~

音楽の力は世界共通ですねっ!
今回も素敵なお話ですね・・・

美佳さん、ありがとう。
僕は元気ですよ。

言葉には国境があっても、
音楽に国境はなし・・・ですね。

チリのお兄さん、元気になってくれて、
よかったぁ~

あやこさん、ありがとう。

音楽には、不思議な力があるようですね。

僕のチェロの音色で、
心がなごんでくれるなら、
世界の果てへでも行って弾きましょう。

チリの人、感動したんですね。
私も先生の演奏を聴いて涙が出るくらい
感動した事があります。
美しい温かな音色が胸に響いてきて…
本当に癒されます。
音楽って、いいですね。

く~ちゃんさん、ありがとう。

「音楽とは、温かい心なり!」
元気がない、チリのお兄さんのために、
「慰めの言葉、励ましの言葉」を、
チェロの音色に乗せました。
「人の心に国境はなし!」
涙を浮かべていた彼は元気になり、
やがて、笑顔を見せてくれました。

プロフィール

プロフィール

土田英順
つちだ・えいじゅん。日本フィル、新日本フィル、札幌交響楽団の首席チェロ奏者を歴任し、ボストン響およびボストン・ポップス響でも演奏。現在はソリストとして札幌を拠点に活躍するかたわら、2007年には役者デビュー。国内のみならず「春の夜想曲~菖蒲池の団欒~」では海外公演も果たす。73歳にして初めてパソコンを購入し、ブログの新世界で弓を引く。

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