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チェロを弾く役者「その11」

2010年06月29日

ソウル近郊の都市、ウィジョンブ。
大衆食堂のような店での出来事。その続きです。

平田さんと飲み始めてまもなく、一人の男が現れました。

彼は、奥のテーブルに着席し、メニューを見ていましたが、
韓国語がわからないらしく、困った様子でした。

平田さんが、日本語で「こっちへ来て、一緒に飲まないか、、」
と誘うと、彼はのっそりと立ち上がり、
無言でこちらのテーブルに移って来ました。

日本語はわからないはずなのに、不思議ですね。

この男は、「ウィジョンブ音楽劇祭」に参加している、
チリの劇団の音楽・音響担当の人でした。
名はステファン。フルネームは聞きませんでした。

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写真:世界から7ヵ国が参加した「ウィジョンブ音楽劇祭」から、
チリの劇団のパンフレット。


彼は、疲れているような、落ち込んでいるような様子だったので、
この男のためにチェロを弾くことにしました。

ところが、チェロを弾こうとすると、床が堅いタイルなので、
チェロがうまく固定出来ません。

平田さんは、チェロが固定出来るものを、店のあちこち捜し回り、
「これでどうだ!」と言って持ってきたのは、座布団でした。

座布団では、チェロがすべってしまって、まるでだめでした。

それを見ていた店のママさんが、
一言何か言って、二階にかけあがって行き、持ってきたのは、
大きな毛布でした。

これでチェロは、なんとか固定出来ましたが、
毛布を敷き、その上でチェロを弾いたのは、これが初めてでした。

「I・will・play・for・you、、Aria・on・the・g・string、by・Bach」
と、ゆっくり言うと、ステファンは、黙ったまま小さくうなずきました。

僕は、バッハの名曲を最後まで目を閉じて弾きました。
曲が終わって、ステファンをみると、
彼は目に涙を浮かべて僕を見つめ、小さく2~3度うなづいただけで、
やはり黙ったままでした。

目に涙を浮かべている、、、感動したのかも知れない、、、

「Ave・Maria、、by・Schubert」と、彼に告げ、もう一曲弾きました。

曲が終わると、なんと今度は店のママさんが、今のアヴェマリアを美声で、
歌い始めたではありませんか、、、

ベートーベンやドボルザークの弦楽四重奏曲が、
BGMで流れている店ですから、
店の人は、皆、クラシック音楽が好きなのでしょう。

ママさんの歌声で、店内はすっかり明るい雰囲気になり、
ステファンも、笑みをうかべるようになり、
片言ですが、会話がはずむようになりました。

悲しい時は慰めてくれる、、、苦しい時は励ましてくれる、、、
楽しい時は、もっと楽しくしてくれる、、、

音楽の力って不思議ですね。

韓国に来てソウルで4公演。ウィジョンブで2公演。
回は重ねても「あしたも初日、あさっても初日」。
これからも、常に新しい気持ちで、舞台に挑んで行こうと思います。

12日間にわたる「TPS」韓国公演の旅。
「ウィジョンブ 音楽劇祭」に参加した、
地元韓国の劇団のパンフレットをご紹介して、韓国からお別れします。


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つづく。


チェロを弾く役者「その10」

2010年06月26日

劇団「TPS」、韓国公演の続編です。

ソウル、「アルコ芸術劇場」で、4公演を終え、
次の公演地、「議政府(ウィジョンブ)」に向かいましたが、
心の中は、ソウルでのすばらしい思い出や、感動でいっぱいで、
後ろ髪を引かれる思いでした。

ソウルで、文化の香り高いエリア、大学路(テハンノ)。
そのエリアの代表的な存在でもある、「アルコ芸術劇場」。
大小二つのの劇場に、地下には広い稽古場もあるすばらしい劇場です。

劇場の前には、美しいマロニア公園。

このようなすばらしい劇場の舞台に立つことが出来たのは、
身に余る光栄なことでした。


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「アルコ芸術劇場」で、開演前のロビー・コンサ-ト。
リハーサル中、うしろで楽譜を覗いているのは、
斉藤歩さん。

撮影:高橋克己。


ソウル近郊の都市、ウィジョンブでは、
「ウィジョンブ芸術の殿堂」で「国際音楽劇祭」が開催され、
世界数ヵ国の劇団が、この「音楽劇祭」に参加しました。

地元、韓国の他、アイスランド、イギリス、ロシア、チリ、フランス、
そして日本からは、「TPS」が参加しました。

「TPS」の演目は、ソウルと同じ「春の夜想曲(ノクターン)」でした。

「春の夜想曲(ノクターン)」で使われている音楽は、
斉藤歩さんによって、この芝居のために作曲・編曲されたものだし、
チェロとピアノの生演奏もあるので、「音楽劇祭」の演目として、
内容が主催者の主旨に沿うものだったのでしょう。

生まれて10年ぐらいの劇団が、
生まれたばかりの作品を引っさげて、「国際音楽劇祭」の舞台で、
世界6ヵ国の名だたる劇団と競い合うということは、
すごい事だと思うのです。
こうした、貴重な体験を積み重ねて行くことによって、
「TPS」は、大きく、たくましく成長して行くのだと思いました。

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写真は、世界数ヵ国が参加した、
「ウィジョンブ音楽劇祭」のパンフレットから、
「TPS」の「春の夜想曲(ノクターン)。


本番の前日、稽古が終わったあと、チェロを持ったまま、
平田さんと二人で飲みに行きました。
その店は、僕らが宿泊していた駅前のホテルの隣にある、
大衆食堂のような店でした。

店内は、およそ店の雰囲気にそぐわない、
ベートーベンやドボルザークの弦楽四重奏曲が流れていました。

平田さんと二人で、僕にとってはあまりおいしくない焼酎を飲んでいると、
一人の男がのっそり店に入ってきました。

長身・黒髪で長髪、髭、ギョロリとした目つき。
疲れた様子で、無表情な男、、どこの国の人かな、、、

奥のテーブルに着席した彼は、
韓国語のメニューがわからないらしく、困っている様子でした。

平田さんが日本語で、「こっちへ来て一緒に飲まないか、、、」
と、彼を誘いました。

つづく。


チェロを弾く役者「その9」

2010年06月23日

前回に続いて、ソウルのカジノのお話です。

過去3戦3勝。
今回の4回目のカジノには、「TPS」のプロデューサー、
平田修二さんのお嬢さん、早季さんと行きました。

カジノに到着後、まず両替所へ行き、現金をチップに替えました。
カジノなどで、現金の代わりに使う札の事をチップ。
外国でタクシーの運転手さんや、レストランの従業員にあげるのもチップ。

日本では発音が同じですが、カジノなどで使う札は「chip」、
タクシー運転手さんや、レストランの従業員にあげるチップは「tip」。
同じようで、違う言葉なのですね。
僕は、発音の違いがわかりませんが、
外国人の発音だと、微妙に違うのでしょう。

さて、両替したチップ(chip)を手に、ルーレットの席に着きました。

モンテカルロのカジノでは、飲み物・食べ物のサービスは、
何もありませんでしたが、ソウルのカジノでは飲み物・食べ物が
フリーです。

早季さんのお父さん、平田修二さんのことは、
これまで「TPS」のプロデューサー、、、としか、ご紹介していませんが、
北海道演劇財団の専務理事を兼務している方で、
北海道の演劇界には、なくてはならない人です。

酒の方は、僕と四つに組んだら、なかなかの好勝負を展開する間柄で、
よくお付き合いをさせていただいています。

早季さんは、お父さんゆずりなのでしょうか、、、
アルコールは、イケル方なので、
二人共、真昼間からワインをグラスでもらいました。


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父と娘。平田修二さんと、早季さん。ソウルで。


ワイン片手に勝負開始。

ルーレットをやる時、僕には独自のやり方があります。
最初に一つの数字を決めてしまい、負けても負けても最後まで、
その数字を変えない、、、

例えば数字を「3」と決めます。
ルーレットには、おおざっぱに言うと、
0から36まで賭ける場所があるので、「3」と決めたら、
3、13、23、33。この4箇所に賭けるのです。

当たる確立は9分の1。当たった時はゴソッと勝つので、
これまで3戦負けなしできたわけです。

始めのうちは僕がどんどん勝ち、早季さんは沈みっぱなしで、しょんぼり。
僕は調子よく勝つもんだから、タダのワインをおかわりしてグイグイ。
これがいけなかった!調子に乗るもんじゃないなぁ~

酔っ払ってくると、気が大きくなって、たくさん賭けてしまいます。
早季さんは、後半盛り返しましたが、それもささやかな抵抗でした。

ついに二人は、刀折れ矢つきて討ち死にとなりました。

柳の下にどじょうは4匹いませんでした。

ウィジョンブに向かう集合時間まで余裕があったので、
二人でチヂミの店に行きました。
チヂミとは、韓国のお好み焼きですね。
海産物の入ったチヂミは、民俗酒場の代表的なつまみなのだそうです。

この店で僕達は、チヂミを肴に焼酎を飲みました。

僕は、このあと次の公演地、ウィジョンブへ。
早季さんは東京へ。

チヂミを肴に焼酎。これが、二人の別れの杯(さかずき)となりました。

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ソウルで。

つづく。


チェロを弾く役者「その8」

2010年06月19日

「TPS」韓国公演の続編です。

ソウルでの全公演が終った翌日は、
次の公演地「議政府(ウィジョンブ)」への移動日でした。

ウィジョンブへ出発するのは、夕方だったので、
それまではソウルで自由行動でした。

僕はこの日気分転換に、カジノで遊ぼうと楽しみにしていました。

僕のカジノ歴は3回です。

(1回目)モナコ・モンテカルロ。

宿泊していた南フランスのニースから電車で行きました。
地中海の海岸線を走る路線。
右手に紺碧の海。美しい風景。

美しいと言ったって、そんじょそこらの美しさではありません。
身も心も、とろけてしまいそうな美しさ。

その美しい風景を眺めながら、ニースからイタリア北部に向かって、
20分ぐらい行くと、モナコ・モンテカルロに着きます。

モナコは、人口約3万人(2004年~2005年現在)で、
世界で2番目に小さな国。
1861年、フランスの保護の下に独立国になりました。
出入国にパスポートは、いりません。

おっとっと、、、韓国の話をしているんでしたね。

この話は、いずれこのブログでお伝えしましょう。

(2回目)ソウル。
(3回目)ソウル。
3回共、一人で行きルーレットで遊びました。
結果は、3戦3勝。

勝ったと言っても、ささやかなものです。
僕の旅行は、いつもシブチン旅行なので、
賭け事に使えるお金は、わずかしかありません。

コンサートや、芝居の舞台の緊張から開放された時、
ささやかであっても、カジノで遊ぶのは、気分転換の一つの方法なのです。

さて、4回目となるカジノには、平田修二さんのお嬢さん、
早季さんと行きました。
オヤジは、ミュージカルを観に行ったらしいです。

早季さんは、よほど芝居がお好きなのでしょうか、、、
2009年の、「TPS」ハンガリー、ルーマニア公演にも
同行されたそうです。


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父と娘。平田修二さんと、早季さん。ルーマニアで。


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早季さんが、「TPS」公演に誘った街の女の子。ハンガリーで。

韓国のカジノは、外国人だけが遊べるところで、韓国人は入場出来ません。
必要なのはパスポート。持って行かないと門前払いになってしまいます。
また、19才未満は入場不可です。

中に入ると、西洋人はほとんどおらず、多いのは中国人でしょうか?
日本人もいるのですが、十数人の団体客で、
ちょっと遊ぶとすぐ帰ってしまいます。
個人で遊びに来る人は少ないように思いました。

さて、これまで3戦3勝。4度目の戦い!
勝負の女神は微笑むか、、、

つづく。

訂正があります。

前回「その7」で、「7月の東京公演を最後に、、」とお伝えしましたが、
正しくは、「8月の東京公演を最後に、、」でした。
お詫びして訂正させていただきます。


 チェロを弾く役者「その7」

2010年06月16日


「TPS」韓国公演の続編です。

2008年5月6日に新千歳空港を出発し、
5月17日に帰国するまで12日間の韓国への旅。

この間、ソウルの「アルコ芸術劇場」で4公演。
ソウル近郊の都市「議政府(ウィジョンブ)芸術の殿堂」で2公演。
計6回の旅公演でした。

この旅には、2L入りの酒1本と、シャケトバ、柿ピー、さきいか、
などのつまみを持って行きました。

前の年に訪問した時の経験では、
韓国の酒というと、焼酎(ソジュ)か、マッコリという、
韓国風のどぶろくで、僕はどうも口に合いません。

そこで、2Lの酒と、つまみ持参となったわけです。

ビール(メッチュ)の味も、日本よりもライトなのど越しで、
こちらもイマ1、イマ2でどうもいけません。

でも、コンビニには日本のビール、僕の好きなオランダのビール、
めずらしいものでは、シンガポールの「タイガー」という、
おいしいビールもあり、
それをホテルの部屋で飲むのが楽しみでした。

酒の他、スーツ・ケースの中には、下着類、くつ下など、
旅先で洗濯するのが面倒なので、旅行日数分持って行きました。

空港での計量では、20kgを超えていました。

「英順さんのスーツケース、どうしてそんなに重いの?」
仲間に追求されましたが、
2Lの酒とつまみが入っているとか、
下着が滞在日数分入っているとは、照れくさくて言えなかったので、
笑ってごまかしました。

初日の舞台の前日、稽古が始まる前に、
本番で着る白いワイシャツを、持って来なかったことに気がつきました。

買うしかない!

稽古の始まる前、アルコ芸術劇場付近を、
白いワイシャツを求めて歩きまわりましたが、
婦人ものの店はあっても、男ものの店が見当たりません。

もたもたしていたら、稽古開始時間に間に合わない!

仕方なく劇場に行き、支配人役の永利靖さんに事情を話すと、
「2枚持っているから、僕のを使って下さい。サイズはどうでしょう。」

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左が、永利靖さん。

撮影:高橋克己。

試着の結果、サイズは見事ピッタリでした。

酒は持ってくるのに、舞台衣装は忘れてしまう。
仲間の親切で、救われましたが、
軽率で、オッチョコチョイな自分が情けなく、自分に腹が立ちました。

永利さんは、TV・CMに日本ハムのスター選手のコーチ役で出演し、
すばらしい演技を見せてくれたのも記憶に新しいところです。

この名優は、韓国公演途中で斉藤歩さんと交代し、
その後、7月の東京公演を最後に、TPSを去りました。

名優が去ったあとのTPSは、ポッカリ大きな穴があいたようで、
悲しくてたまりませんでした。


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中央が、永利靖さん。右奥、伊藤珠貴さん。

撮影:高橋克己。

つづく。

 

チェロを弾く役者「その6」

2010年06月12日

今回は、最初にお詫びと訂正をさせていただきます。

先日、チェロを弾く役者「その4」の中で、
韓国の文化予算は、5、000億円とお伝えしましたが、
調べ直した結果、正しくは2、500億円でした。
(2010年度)

あいまいな記憶でお伝えしてしまい、
大変失礼致しました。
お詫びして、訂正させていただきます。


「TPS」、韓国旅公演の続編です。

旅の最大の楽しみは、飲むこと、食うことです。
その土地の酒、料理を楽しむために、仕事をしているようなところがあります。

かつて、オーケストラの演奏旅行中、たいくつなリハーサルにうんざりして、
「今夜の酒の肴は、何にしようか、、、」
などと考えたこともありました。

リハーサルとはいえ、ベートーベンのシンフォニーを弾きながら、
その日の酒の肴を考えている、、、とんでもないチェロ弾きだ!

僕は、芝居の中の「次郎さん」の、はるか上を行く、
「風のように適当な男」なのかも知れません。

さて、ソウルでの何回目かの公演が終ったある日、
役者・スタッフ一同で、居酒屋に行きました。

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ソウルの居酒屋で。
右、山本菜穂さん。ソウル公演を最後に、TPSを退団しました。
左、韓国の劇団「青羽(チョンウ)」の役者、キム・エリさん。

撮影:高橋克己


小上がりに席を取り、店が用意してあった料理は、鉄板焼きとナベでした。
鉄板焼きは、キムチ焼きで、魚介類や野菜などが、
赤いキムチに味付けされていました。

火がつけられてしばらくすると、鉄板の中の魚介類、野菜にまざって、
なんと!
大きな太いミミズが、うごめいているではありませんか!!!

「うっひゃ~、韓国の人はミミズを食うのか!」

僕が驚いて、すっとんきょうな声をあげたものですから、
「なんだ、なんだ、、、」と、みんなが鉄板の上をよく見ると、
ミミズと思ったのは生きたタコの足だったのです。
タコの足は、キムチで見事、赤っぽい色に着色されていました。

かわいそうに、タコは生きたまま、ハサミで胴体から足を切り離され、
キムチ鉄板の中でうごめいていたわけです。

僕は、気持ちが悪くて食べられませんでした。

ナベは、お湯が沸騰してくると、
店員が水槽の中の生きた小ダコを、数匹アミですくって来て、
ナベに放り込みました。
小ダコは、すぐゆでダコになり、あっけなくあの世に行ってしまいました。

店員は、ゆでダコを食べやすいように、ハサミでチョキチョキ切って、
またナベに放り込みました。
韓国の人は、タコをよく食べるようですね。

なんであれ、目の前で命を断たれた生き物を食べるのは苦手です。

つづく。


チェロを弾く役者「その5」

2010年06月10日

「TPS」韓国公演の続編です。

札幌からソウルへ移動した日は、ホテルにチェックインした直後にロビーに集合し、
ソウルの、TPS公演関係者に劇場、稽古場などを案内していただきました。
夜は歓迎の宴会があり、
チェロを練習する時間が全くありませんでした。

翌日の稽古は13:00からだったので、
その前に2時間ぐらいは、練習しなければなりません。

韓国の劇団、「青羽(チョンウ)」の皆様が、
TPSのソウル公演を、サポートしてくださっていたので、
「青羽」の演出家、キム・カンポさんに、
「チェロが練習出来る場所を確保してもらえないか、、」と、お願いしてみました。

「明日は、我々の劇団の稽古場があいているから、
好きなだけ練習にお使い下さい。明朝、劇団員がホテルに迎えに行きます。」

ありがたき幸せ!練習が出来ないと、岡にあがったカッパ同然ですからね。

翌朝、約束の時間に現れたのは、
高級車に乗った、「青羽」の役者、キム・エリさんでした。

美貌で、やさしくて、礼儀正しい彼女は、
きっと、韓国でナンバー・ワンの人気役者なのでしょう。

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ソウルの劇団、「青羽(チョンウ)」の役者、キム・エリさん。

撮影:高橋克己

「青羽」の稽古場に着くと、
ウンジョンという名の、かわいい女性劇団員が笑顔で迎えてくれ、
コーヒーを入れてくれました。

練習をはじめて1時間ぐらいすると、再びコーヒーを入れてくれて、
ありがたいのを通り越して、申し訳なく、親切が身にしみました。

韓国の人は、親切な人が多いですね。
ソウル近郊の議政府(ウィジョンブ)での公演のあと、
道路に出てタクシーを、さがしていた時のこと。
劇場の前の道路は、とても広いのですが、
タクシーが少ないのです。

しばらくすると、一台の自家用車が、ス~ッと目の前に止まりました。
助手席の窓が開いて、中年のご婦人が、

「タクシーを待っているのですか?」
「はい。」
「どこに行くのですか?」
「駅前のホテルまで。」
「お送りしましょう。お乗り下さい。」

運転席からは、男の人が出てきて、ドアを開けてくれました。

見知らぬ人に、このような親切は、なかなか出来るものではありません。

日韓の関係は、歴史認識にしても、竹島の領有権問題にしても、
ギクシャクする事があり、
なかなか解決の糸口が見えない状況のように思いますが、
市民と市民の関係は、友好的で平和そのもののように感じます。

ソウルでの、すべての公演が終わった日、
「青羽」のもう一人の看板役者、イ・ホンジェさんと、キム・エリさんは、
TPS劇団員の一人一人に、メッセージと記念品を下さいました。

小さなメッセージ・カードに書かれていたものは、お心がこもったものでした。

心に残るソウルでの思い出、「青羽」の皆さんの温かいおもてなし。

小さなカードに書かれた、たった一言のメッセージの中には、
お二人の温かいお気持ちが、いっぱい、つまっているように感じ、
今も大切に持っています。

「to。土田英順。おつかれ様でした。またね!
from、
Lee・Hun・Jae
Kim・Ye・Ri
PS。
You・are・very・very・すてき・かっこいい。!」

(原文のまま)

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左、イ・ホンジェ。
右、キム・エリ。

2009年、「TPS」+「青羽(チョンウ)」提携公演、「蟹と無言歌」より。

札幌、シアターZOO

撮影:高橋克己

つづく。

チェロを弾く役者「その4」

2010年06月06日

チェロの演奏暦51年、チェロと酒ひとすじに人生を歩んで来た男が、
芝居にはまり、今度はブログに、はまってしまいました。
チェロの方は、はまりっぱなしです。

ブログは、この春パソコンを購入したばかりなので、ホヤホヤの一年生です。

これまで3回、毎週木曜日に更新してきましたが、
ブログの上で、皆さんにお会いするのに間隔があきすぎて、寂しくなりました。

そこで、更新は週2~3回にしました。

どうぞよろしくお願いいたします。

さて、今回も芝居の話です。

TPS公演、「春の夜想曲(ノクターン)~菖蒲池の団欒」の公演は、
2008年3月、札幌で7日間に9公演行われ、無事千秋楽の幕をおろしました。

初舞台の「銀河鉄道ノ夜」では、セリフも演技もなく、
場面場面でチェロを弾くだけの役でしたが、
この芝居に出演が決まった時、演出の斉藤歩さんは、
「英順さんにも、セリフの二言三言、言ってもらいます。」、、、
と、おっしゃっていたそうです。

ところが、台本をいただいてみると、
セリフは二言三言どころではなく、たくさんあるではありませんか!

居酒屋のカウンターで、一杯やりながらブツブツ練習していて、
隣の席の客に、不審そうににらまれたり、
地下鉄の車内でブツブツやって、下車駅を通り過ぎてしまったり、
ドジなこともやりましたが、
本番の舞台は、役者の皆さんに支えられて、乗り越える事が出来ました。

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芝居の冒頭、ビールを一杯ひっけてチェロ演奏。ピアノの上にビールが見える。
右は、「春海さん」の伊藤珠貴さん。

撮影:高橋克己


そして、今度はもう一つの夢だった旅公演。
同じ年の5月に韓国、7月に沖縄、8月に東京で公演がありました。

韓国の公演地は、ソウルとその近郊の都市、議政府(ウィジョンブ)の2都市でした。

ソウルの劇場は、緑豊かな芸術の街、
大学路(テハンノ)にある「アリコ劇場」でした。

大学路は、劇場や画廊、衣料品店などが集っている、文化の香り高い場所ですが、
縦1km、横500m程のエリアに、劇場が140ぐらいあると聞き、
驚いてしまいました。

以前、この場所にソウル大学がありましたが、ある時期に市内の他へ移転し、
その跡地に現在のエリアが造られたので、
大学路と呼ばれるようになったのだそうです。

韓国の人口は、約4926万8000人。(2005年現在)
約1億2768万人いる日本の約39%ですね。
人口は日本の39%しかなくても、
国の文化予算は、韓国5000億円、日本1000億円。
日本の5倍なのです。

日本は、国も自治体も、芸術・文化にもっと目を向けてほしいですね。

つづく。


チェロを弾く役者「その3」

2010年06月03日

「TPS・・・Theater・Project・Sapporo」公演、「銀河鉄道ノ夜」。

千秋楽の舞台が終わってみると、このすばらしい役者の皆さんと、
もう一度、別の作品で同じ舞台に立ちたい、、
出来れば一緒に旅公演にも出たい、、
そんな欲張りな思いが、日に日に強くなって行きました。

叶わぬ夢と思っていた夢を、二つともいっぺんに叶えて下さったのが、
プロデューサーの平田修二さんと、
TPSのチーフ・ディレクター、斉藤歩さんでした。
歩さんは、僕をまじえた芝居を考えて下さり、その結果生まれたのが、
「春の夜想曲(ノクターン)~菖蒲池の団欒」で、
その新しい作品が、僕にとって舞台出演2作目となったのです。

その作品は、雪解けを迎える早春の季節、
札幌の中島公園の、池の真ん中に取り残された浮島に、
期間限定で出現する、ホテルのナマ演奏付きの特別室。
その特別室に宿泊することになった、叔母と姪との物語です。

特別室にある掘り炬燵の下には、
無数の秘密のトンネルが張り巡らされている、、、という奇想天外な話ですが、
心温まる話でもあるのです。

僕の役は、名は「次郎さん」。札響の首席チェリストで、
大酒飲みで、風のように適当な男、、、
ナマ演奏付きの特別室でチェロを弾くために、
札響のコンサートをすっぽかし、札幌コンサート・ホール「キタラ」から、
秘密のトンネルを這いつくばって、ホテルの特別室にある掘り炬燵から現れます、、、


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2008年、韓国公演:右はホテルの支配人、吾郎の永利靖さん。
撮影;高橋克己

チェロを弾くために来たのに、チ ェロをトンネルの中に忘れて来てしまう、、
そのような、風のように適当な男なのです。
そして、コンサートをすっぽかしたことがばれて、
札響をクビになる、、という役です。


芝居の冒頭では斉藤歩編曲の、ショパンのノクターン第2番を弾きました。

この編曲は、チェロとピアノがロマンティックに対話をしながら進んでいく編曲で、
僕はとても気に入っています。

でも、お客さんがどう評価するかは、気になるところです。
一計を案じて、僕は聴きくらべをやってみる事にしました。

ノクターン第2番。

「1」ショパンのオリジナル曲、、ピアノ・ソロ。「2」ハンガリーのチェロの巨匠、
ポッパー編曲のチェロとピアノ。「3」斉藤歩編曲のチェロとピアノ。

コンサートで、この3曲を続けて弾き、聴きくらべをやってみました。

「、、、皆さん!同じ曲でも、オリジナル曲と、編曲もの。
編曲ものも、編曲者によって、こんなに違います。
皆さんは3曲のうち、どれが一番お好きですか?、、、」お客さんに問いかけました。

結果は、数回のコンサートすべてで、斉藤歩編曲が圧倒的多数で一位だったのです。
僕は本当に嬉しくて、その都度終演後に歩さんにメールで知らせました。

「お~い、今夜も斉藤歩編曲が一位だったぞぉ~ダントツだぞぉ~」

歩さんは、いつも返信してくれましたが、
この件について触れたことは一度もありませんでした。

彼は、案外照れ屋なのかも知れません。

酒を飲む、愉快な場面もありました。

酒に目がない「次郎さん」は、ホテルの支配人に薦められるままに、
甘口の酒を湯呑みでグイグイ飲みました。

しかし、それは酒ではなく味醂でした。
酒と味醂の違いがわからない、おっちょこちょいのボーイが、
味醂を持って来てしまったのです。


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次郎さん・「このお酒、何?」、、支配人・吾郎・「え~っと(ラベルを見る)」
次郎さん・「ちょっと甘ったるいね」、、吾郎・「次郎さんごめん、これ味醂だわ」
次郎さん・「味醂か」、、吾郎・「飲んじゃった?」
次郎さん・「全部飲んじゃった」吾郎・「ごめんね」
次郎さん・「いいよ」

2010年再演:道内8都市、本州4都市。計28回の公演を行う。
左はホテルの支配人、吾郎の斉藤歩さん

撮影、高橋克己


「春の夜想曲(ノクターン)~菖蒲池の団欒」

ホテルの特別室に宿泊することになった、叔母と姪との物語。

病をかかえ、厚木で一人暮らしの叔母。
父に捨てられ、母と死に別れ、結婚生活の夢破れ、
度重なる不幸に襲われながら、くじけることなく北海道で一人たくましく生きる姪。

他に身寄りのない、二人の突然の再会から始まる物語は、
喜劇的な場面をはさみながら、フィナーレへと向かい、観終わったあとは、
ほのぼのとした、心温まる思いで家路につくことが出来る芝居なのです。

つづく。

プロフィール

プロフィール

土田英順
つちだ・えいじゅん。日本フィル、新日本フィル、札幌交響楽団の首席チェロ奏者を歴任し、ボストン響およびボストン・ポップス響でも演奏。現在はソリストとして札幌を拠点に活躍するかたわら、2007年には役者デビュー。国内のみならず「春の夜想曲~菖蒲池の団欒~」では海外公演も果たす。73歳にして初めてパソコンを購入し、ブログの新世界で弓を引く。

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